Nature Reviews Cancer Biology Collectionにようこそ。このコレクションには、最近のがん研究における最も重要な進展にスポットライトを当てたレビュー論文を集めました。 世界では年間1100万人以上が、がんと診断され、約700万人が、がんによって命を落としています。このため、がんの根本原因と生物学的機序については徹底的な研究が行われており、がんの解明と治療法の開発が日に日に進んでいます。このような進歩を明確に示し、現代の研究の最先端を反映した権威ある情報源となることが、Nature Reviews Cancer の役割です。
本誌の対象範囲を明らかにするため、Reviews及びPerspectivesセクションに昨年掲載された論文の中から12本を精選しました。すべての論文は、トップクラスの専門家によって執筆されており、がん研究という興味深い研究分野の多様性や学際的性を反映しています。テーマとしては、がんの分類(例えば前立腺がん、乳がんや白血病)、ナノテクノロジーや三次元in vitroモデルのがんへの応用可能性といった技術的側面、予後や診断のためのバイオマーカー、がんの分子生物学的側面(シグナル伝達や接着を含む)、がんにおける血管新生、がんの転移、幹細胞由来のがん、有望な治療標的などがあります。
このような論文の日本語訳をすることで、がんの分子的基盤の研究から新薬開発に至る各分野で活躍されている日本のがん研究者、学生やがん関連の講座を担当されている大学関係者の皆さまのお役に立てば幸いです。
このがん生物学コレクションの論文は、PDFファイルを無料で閲覧できます。翻訳された論文だけでなく、オリジナルの英文のPDFファイルも添付されており、原文と翻訳文を比較できるようになっています。
ウェブサイトをご覧になった後で、ホームページにあるリンクからオンライン読者アンケートのページに入っていただき、今回のコレクションに関する質問にお答えください。皆さんのご意見をお待ちしています。
この Cancer Biology Collectionの実現にご尽力いただいた熊本大学大学院医学薬学研究部の佐谷秀行教授と、多大なるご支援をいただいたリンク・ジェノミクス株式会社に、心より感謝いたします。
Ezzie Hutchinson
Nature Reviews Cancer 編集長
Reviews
前立腺がんの骨転移にかかわる骨芽細胞
Osteoblasts in prostate cancer metastasis to bone
Christopher J. Logothetis, Sue-Hwa Lin
doi:10.1038/nrc1528
Nature Reviews Cancer 5, 21-28
前立腺がんは、骨に転移しやすく、形成される腫瘍は溶骨性ではなく骨芽細胞性になりやすいという独自の性質をもつ。前立腺腫瘍と骨の相互作用の研究から、臓器特異的ながんの進行に関する重要な情報が得られた。
網膜芽細胞腫の起源細胞を探して
The search for the retinoblastoma cell of origin
Michael A. Dyer, Rod Bremner
doi:10.1038/nrc1545
Nature Reviews Cancer 5, 91-101
腫瘍形成を開始する最初の細胞、つまり起源細胞を突きとめれば、腫瘍の増殖と進行に伴って細胞に生じる変化についてかなりの情報が得られることがある。網膜芽細胞腫は、 Knudson が、がん形成の 2 ヒット仮説を提唱したときの研究対象として有名になったまれな小児がんだが、この種の細胞を探すのに適したモデルである。このがんは最初の遺伝的欠陥が十分に解析され、網膜の発生についても詳しくわかっている。このがんの起源細胞になる候補はどんな細胞だろう?
がんのナノテクノロジ—:機会と挑戦
Cancer nanotechnology: opportunities and challenges
Mauro Ferrari
doi:10.1038/nrc1566
Nature Reviews Cancer 5, 161-171
ナノテクノロジ—(超微細技術)はがんの早期発見や診断、あるいは抗がん剤の標的部位への送達に役立つ可能性がある。この総説は未来に目を向け、がん治療がいかに微細に、そして正確になりうるかを論じている。
白血病幹細胞とがん幹細胞研究の発展
Leukaemia stem cells and the evolution of cancer-stem-cell research
Brian J. P. Huntly, D. Gary Gilliland
doi:10.1038/nrc1592
Nature Reviews Cancer 5, 311-321
白血病幹細胞は、特徴が説明された最初のがん幹細胞である。この細胞の起源については意見が分かれており、その生物学はまだ十分には解明されていない。この論文は白血病幹細胞の生物学の進歩を描いており、がん幹細胞研究に向けて次の段階がどうなるかを問いかける。
ERBB 受容体と癌:標的阻害剤の複雑な作用機序
ERBB receptors and cancer: the complexity of targeted inhibitors
Nancy E. Hynes, Heidi A. Lane
doi:10.1038/nrc1609
Nature Reviews Cancer 5, 341-354
ERBB 受容体型チロシンキナーゼは癌の病因と進行に重要な役割を果たしており、治療に有効な標的分子である。この論文は、現在行われている ERBB 受容体分子標的治療に対する応答の根底にあるしくみを検討するとともに、腫瘍の耐性機序を理解することが医療現場で別の選択肢になるもっと有効な治療戦略にいかに結びつくかを考察している。
腫瘍血管の破断
Disrupting tumour blood vessels
Gillian M. Tozer, Chryso Kanthou, Bruce C. Baguley
doi:10.1038/nrc1628
Nature Reviews Cancer 5, 423-435
この総説は低分子量の血管破断剤について検討している。この薬剤を投与すると固形腫瘍への血流の活動停止が引き起こされるが、正常組織の血流はそれほど損なわれずに済む。薬剤の作用機序を完全に理解すれば、定着した腫瘍血管を標的にする新しい治療薬を開発する基盤が得られるだろう。
癌における Focal-Adhesion Kinase の役割 — 新しい治療のチャンス
The role of focal-adhesion kinase in cancer — a new therapeutic opportunity
Gordon W. McLean, Neil O. Carragher, Egle Avizienyte, Jeff Evans, Valarie G. Brunton, Margaret C. Frame
doi:10.1038/nrc1647
Nature Reviews Cancer 5, 505-515
Focal-Adhesion Kinase (接着斑キナ—ゼ、 FAK と略す)は細胞の増殖、生存および移動、つまり癌の発生と進行に関与するあらゆる過程にかかわり、これらを促進する。 Margaret Frame らによるこの総説は、 FAK を癌治療の新しい重要な標的にすることができるという証拠を論じている。
乳がんの転移:マーカーとモデル
Breast cancer metastasis — markers and models
Britta Weigelt, Johannes L. Peterse, Laura J. van't Veer
doi:10.1038/nrc1670
Nature Reviews Cancer 5, 591-602
乳癌患者の臨床治療の結果を予測し、最良の治療の選択肢を決めるのにさまざまな予後診断マ—カ—が使われているが、これは正確な科学的判定ではない。著者らはこれらのマ—カ—の有効性を検討し、 DNA マイクロアレイ技術など、予後の予測を改善するほか、転移の理解にもつながる進歩について述べている。
三次元培養での腺管再構築とその癌化
Modelling glandular epithelial cancers in three-dimensional cultures
Jayanta Debnath and Joan S. Brugge
doi:10.1038/
Nature Reviews Cancer 5, 675-688
乳癌などの上皮癌では、極性化した形態の破壊、特殊化した細胞どうしの接触、基底膜への付着および腺管分化を研究の現場で再構築することが特にむずかしく、意味のある解析が困難である。 Jayanta Debnath および Joan S. Brugge は、三次元培養系を利用し、構造的に適切な再構築モデルで癌遺伝子や腺管上皮の癌化経路をどのように究明できるかを説明している。
HSP90 と癌へのシャペロン作用
HSP90 and the chaperoning of cancer
Luke Whitesell, Susan L. Lindquist
doi:10.1038/nrc1716
Nature Reviews Cancer 5, 761-772
多くの腫瘍では熱ショックタンパク質( HSP )の発現が大幅に増加している。タンパク質が誤って折りたたまれたり成熟したりするのを防ぐ HSP の正常な機能は抑えられ、実際には腫瘍形成の進行を促進してしまう。どうすれば HSP90 を抗癌治療の標的にすることができるだろう?
癌の病期分類、予後判断、治療選択に有用なバイオマ—カ—
Biomarkers in cancer staging, prognosis and treatment selection
Joseph A. Ludwig, John N. Weinstein
doi:10.1038/nrc1739
Nature Reviews Cancer 5, 845-856
癌の病期分類は通常、病気の解剖学的範囲に基づいてなされてきた。バイオマ—カ—の候補がさらに同定され検証されるにしたがい、どうしたらそれらの有効性を最善の方策で臨床現場で認証し、癌の病期分類、予後因子そして治療選択の過程に取り入れることができるだろうか?
発がん性 PI3K は転写と翻訳の調節を乱す
Oncogenic PI3K deregulates transcription and translation
Andreas G. Bader, Sohye Kang, Li Zhao, Peter K. Vogt
doi:10.1038/nrc1753
Nature Reviews Cancer 5, 921-929
ホスファチジルイノシト—ル 3- キナ—ゼ( PI3K )は、転写と翻訳の両方を制御する数種類の異なるシグナル伝達経路の重要な分岐点に存在する。 PI3K の機能が破壊されるとどのように発がんがもたらされるのだろう。また、この多面的な作用をもつ酵素を標的にする治療は可能だろうか?
